インパール 高木俊朗

インパール (文春文庫)

インパール (文春文庫)

功名心と神がかり的な信念に取りつかれた牟田口将軍が、戦局がはかばかしくないなか派手な戦果を望みボースへの対応を苦慮していた東条首相を背景にして、退嬰的な大本営と南方総軍・ビルマ方面軍上層部が、この作戦を実行させずるずると引き延ばした。印象的なのは、いざ命令を受けて仮病を使ったり理屈をこねて進撃を遅らせたりする士官たちだ。この卑怯な振る舞いが、柳田師団長の評価にも微妙に影響するのかもしれない。ただ、柳田師団長は、多くの幕僚がものを言えなかった牟田口司令官にはっきり進言しており、勇気がないというのはあたらないだろう。ただ、いかに無謀な命令だとしても、すがすがしく命令に従って自らを危地に置いた人たちと比べて、進撃を遅らせ処分を受けると大量の乾パンを馬に乗せて従兵までつけて去る大隊長などの振る舞いは許しがたく、人間の醜さと利己心を非難したくなってしまう。