ペスト ダニエル・デフォー

ペスト (中公文庫)

ペスト (中公文庫)

死亡者数の数字の羅列はたしかに辟易させられるが、インチキ薬や占い師がはびこり、死病に襲われて逃げ出す市民、通過させまいとする近隣の村、家を封鎖されてなんとか脱出しようと試みる病人の家族、教会に集う信仰心、宗派対立を超えて説教壇を守る牧師などの姿が淡々と叙述される。とくに、疫病が猛威をふるっていた時には、国教会牧師が逃げ出したあとを守った非国教会に対する非難を情けなく感じ、逆に逃げたことを非難する非国教会の態度を「もし神が、他の者よりいっそう大きな力をある者に与えたとしたら、それははたしてその人が、苦難に耐えるその能力を誇るためであり、同じ賜物と援助とを与えられなかった他人を非難するためであったろうか」と批判する。いま、インフルエンザが流行っている。3年前の新型インフルエンザ騒動を思い出すに、死病を前に、人間の行動は、さほど変わらないのであろう。