指揮権発動 渡邉文幸

指揮権発動―造船疑獄と戦後検察の確立

指揮権発動―造船疑獄と戦後検察の確立

造船疑獄の指揮権発動は、政治による検察への介入であり、政治が佐藤栄作を守るために法務大臣の首を犠牲に検察を抑え込んだ、というのが通説だったが、それを、文献や関係者への直接取材を通じて、覆している。暴走する特捜部により、昭電事件や炭鉱国家管理事件などで多数の無罪を出した検察にとって、勝ち目のない起訴になって無罪となり威信が傷つけられるのは避けたい。一方で、支持率が落ち込み末期状態の吉田内閣にとって幹事長逮捕は政権崩壊に直結し、また検察ファッショを嫌う吉田茂は、政党の台所に突っ込んできた検察を許せない。すなわち、思想検事(岸本・最高検次長検事)と経済検事(馬場・東京地検検事正)の対立ではなく、馬場と親友の法制局長官・佐藤達夫が緒方副総理に入れ知恵した、というのだ。独断専行に過ぎるとの河井信太郎に対する部内(伊藤栄樹など)の批判は、現在となってみると、特捜部全体に適用されることになるのだろうが。