源氏物語の結婚 工藤重矩

源氏物語の結婚 - 平安朝の婚姻制度と恋愛譚 (中公新書)

源氏物語の結婚 - 平安朝の婚姻制度と恋愛譚 (中公新書)

平安時代は一夫多妻制ではなく、「一夫一妻多妾」であり、正妻とそれ以外の妾や召人とは、たいへんな格差があり、生まれた子の昇進も全く違った。妻と妾の差は、親(亡くなっていた場合は、祖父母などしかるべき後見)が媒を通して承認した形をとって正式に婚姻をしていて、そうした妻は、死別か離別でもない限りその地位は安泰。従って別の妻が現れることはない。そうした前提に立って、源氏物語の紫の上は、妾でありながら源氏の愛だけを頼りに、中宮の養母にして輦車を許されるという「つま」にして「妻」並の幸せをつかむ。しかし、女三宮が「妻」として現れると、妾としての地位を自覚せざるを得ない。第一部での「妻」候補の次々の排除や、源氏の流謫による二条院の管理という「妻」的立場の確立、明石の君との明確な差など、源氏物語は、「妻」と「つま」の違い、「妻」になれないものの悲哀とそれでも愛情にすがっていきていくことを緻密に構成して描いていく物語だったのだ。一夫多妻制のなかの恋愛譚と思っていたら大違いだったのだ。ここ半年くらいで読んだ歴史書としては『河内源氏』と並ぶ。