昭和史を陰で動かした男 松本健一

昭和史を陰で動かした男―忘れられたアジテーター・五百木飄亭 (新潮選書)

昭和史を陰で動かした男―忘れられたアジテーター・五百木飄亭 (新潮選書)

戦前の右翼国家主義者と言ってもひとくくりにはできず、日本が朝鮮や中国を抑えつけることを主張する一派と、日韓対等合邦や中国革命を支援してともに発展していこうという一派とがあり、五百木は前者だったこと、またかつて対外進出に積極的だった憲政本党系から政友会系に人脈が移っていったことなどが、かつて子規の「一番弟子」として秀句を多く読んだ文学的才能を惜しみつつ、戦前日本の右翼史ともいうべき五百木の人生をつづっている。しかし、そのロマン主義的傾向は、日清戦争従軍期にあらわれ、代表作として挙げられた雪の句にみられるように、思想性、「乏しきを分ちつく」す「浪人」としての人生にほかならなかった。