〈病気〉の誕生 児玉善仁

中世ヨーロッパでは、、医師と患者との間に「契約」が結ばれて、医師は治癒したときに成功報酬を得る、というところから話を始め、その背景を▽中世では、病気と病因、症状の区別が無かったこと、神学的な世界観からは、病気はあるべき状態からの欠如で治癒は欠如の回復だった(また中世は、教師が学生に教えるときや現地妻や妾についても契約を作るような社会だった)ことに求め、▽大学医学部ができて各地の医師組合で大学出の内科医が指導権を握ることで、新しい病気観(アラビア医学・さらにアラビアを経由しての古代ギリシア医学)次第に診療報酬へと移っていき、▽病院も、修道院的保護と看護だったものが新しい医学の実践の場としての位置付けのもと作られるようになった。タイトルに惹かれて読み始めたが、なかなか読みにくかった。著者は「アルプス北部」「イタリア」という表現で主にイタリアについて論じているが、中世の大学医学部で神学的・宇宙論的病気観を脱却できたのは、やはりアラビアに近く商業など現実的なイタリアであったのだろう。また最後に触れているが、ペストの流行は、神の怒りや天体の配列では、人から人への伝染という事態を説明できないことで、病気観を動かすことにつながった、というのは納得できる。

「病気」の誕生―近代医療の起源 (平凡社選書)

「病気」の誕生―近代医療の起源 (平凡社選書)