黄金国家 保立道久

知的刺激に満ちた本。朝鮮・渤海・中国との関わりから奈良〜平安初期の歴史を見る。黄金がとれず朝鮮半島に依存していたのが大仏建立の際に国内に見つかったことにも触れているが、タイトルほど黄金はキーワードではないのでは。▽第1章では、奈良時代の日本を唐・新羅に追いつくための開発独裁国家、百済の王権を吸収した民族複合国家=反新羅とみて、大仏建立が新羅出兵とは別の選択肢であり、新羅出兵断念の背景に渤海が郡王から国王に格上げされたことをみる。▽また第2章では、遣唐使の派遣を代替わりと位置付け、怨霊とされながら今一つ不明確な文室宮田麻呂(=朝鮮半島の勢力・張宝高)と承和の変との関わり(仁明朝から万世一系ナショナリズムとなり民族複合国家はなくなるとする)、応天門の変でも良相側近の太宰少弐藤原元利麻呂の新羅国王への通謀、869年の豊前貢調船襲撃と翌年の対馬漂着を機に新羅人30人の上総・武蔵・陸奥への配流(さらに暫くして逃亡した後「結局、彼らが安着の地をうることができたとすれば、それは東国に古くから存在した高麗系をはじめとする渡来系氏族の居住地であったのではないだろうか」とする)。▽第3章では、遣唐使の廃止は、宇多天皇の代替わりとして派遣しようとしたが当時の唐の状況ではいつ戻ってくるかわからず譲位に影響するからやめたこと、遣唐使を廃止しても、海商朝貢体制のなかで(ただし天皇は面会せず、穢れ的考え方が都市の衛生観念とあいまって出てくる)、僧が往復し通好していたこと。▽終章で、王権外交の物質的基礎として蔵人所納殿の黄金を考え、「竹取」・「今昔」などに見られる黄金説話から庶民への浸透をみる。金は海外の文物を購入できる財だから。

黄金国家―東アジアと平安日本 (シリーズ 民族を問う)

黄金国家―東アジアと平安日本 (シリーズ 民族を問う)