ワイルド・ソウル 垣根涼介

ワイルド・ソウル

ワイルド・ソウル

ほとんどの日本人が知らないであろう戦後に行われた棄民を告発する。冒頭、一世である衛藤の視点で苦闘(という生易しい表現では覆えないが)を描いていることと、日本人テレビディレクター貴子の視点が加わることで、「復讐」が読者にも共感の持てるものとなっている。徹底した日本語教育を受けた松尾の存在は、読者と人物たちの橋渡しの役割を充分果たしている。登場人物でほとんど無意味なのは警備のエリートだけで、これは刑事特殊の管理官との対比のために出てきたのかもしれないが、いない方がいい。管理官も、ユニークさが人質の居場所を突き止めたことにしたいのだろうが、そのユニークさが十分描くことが出来ず刑事の伝聞エピソードで支えているのは、いかにも弱い。別の事件との絡みを見せるとか(特殊では難しいが異動前にいた強行担当時という設定で描くとか)しないと。▼復讐にしては、おとなしすぎないか、との感もある(だからこそ読者は犯人たちに共感を抱けるのだが)。レバノン人の言葉だけで支えるのはきついかもしれない。が、多くの移民が黙って中南米の土となったことを考えると、ありかな、と思う。ディテールで気になったのは、外務官僚が北米局長→駐米大使→次官と出世するというところ。外務省は法務省同様、次官がトップではない役所のはず。そう言えば山口は外交官試験でなく国家公務員上級職試験だし。警察本部の一課長にキャリアがつく、というのも気になる。このあたり、半可通というより非常識に近い。