キョウコのキョウは恐怖の恐 諸星大二郎

キョウコのキョウは恐怖の恐

キョウコのキョウは恐怖の恐

誰でもふと感じる怪しさ(目の前にあったはずのものが探しているときどうしても目に入らないとか)、自己存在の不確かさとでもいうべき一瞬の先に広がる妖しい世界。ちょっとしたきっかけで迷い込んでしまうのかもしれない、という感じを抱かせる短編集。最初の3篇にはそれぞれ「キョウコ」が登場する。「狂犬」の凶子、「秘仏」の恐子、「獏」の狂子。先2編のキョウコは、傍観的ではあるが、どちらかと言えば助ける側だが、「獏」の狂子は、結果的に語り手を夢の中に取り込んでしまう。収録5編のうち、「秘仏」が最も迫力がある。「狂犬」は狐憑きや犬神など仕掛けは一番だが、やや構成が複雑だ。「鶏小屋のある家」と「濁流」にはキョウコは登場しないが、どうせなら稗田礼二郎ばりにキョウコを全て通しで出してみるのもよかったのでは、とも。というより、キョウコをメインにした小説版『妖怪ハンター』をぜひ読んでみたい。