義経 司馬遼太郎 文藝春秋

新装版 義経 (上) (文春文庫)

新装版 義経 (上) (文春文庫)

新装版 義経 (下) (文春文庫)

新装版 義経 (下) (文春文庫)

義経を軍事の天才というよりは政治的痴呆・子供としての側面を多く描き、その意味で頼朝に好意的と言えなくもない。景時についても、讒言癖は癖として、その背景=武士は恩賞のためについてきていて、自らを頼朝の御家人という意味では義経と同格に置いている=という視点で描いている。▼義仲の扱いは、項羽、という感じか。松殿の姫は虞美人、というところか。▼お得意の高みに立った評論的小説だが、ディテールがやはり気になる。秀衡の舅・基成は、若き陸奥守で、平治の乱の当事者・信頼の兄なのに、民部少輔の低い身分でもはや出世の道がなく娘をいわば売る形で陸奥に来たという表現は最たるものだが、源氏の最初の任国司のうち武蔵守義信は、頼朝も重んじた家柄の人物というのに、どんな傍流の者か顔も知らない、としたり(義経ではなく、作者が知らないのでは、と思ってしまう)。これらは、小説上の設定かもしれないが、では以下はどうか。単純なミスであろうが、時忠が宗盛に「右府」と呼びかけたり、兼実を左大臣としたり。