死と境界の中世史 細川涼一

死と境界の中世史

死と境界の中世史

「Ⅰ現代のオカルト・ブームと中世人の霊魂感」で、輪廻転生は、中世顕密仏教では否定されるもので、転生から抜け出すことが往生。アニミズムとしてとらえられた「草木国土悉皆成仏」は実は「王法・仏法相依」を前提に王朝国家が民衆から一国平均役などの課役をとる国土を顕密仏教の側から荘厳する現世絶対肯定の思想である、と梅原猛を痛烈に批判する。「Ⅲ中世差別と逸脱の精神史」では、真如親王(高丘親王)について、捨身飼虎を踏まえた、トラに食われて天竺に渡った、という伝説自体、鎌倉初期に「日本回帰の精神状況」のもと記された(慶政『閑居友』。慶政は泉州南蛮人じつはペルシア人に字を書かせるなど国際的視野を持ち得る体験をした人物だが)こと、それが、太平洋戦争では、南進論に利用された事実を紹介している。また後鳥羽院による「天竺の冠者」弾圧事件を親王を詐称したことによる尊卑の観念(種姓観念で日本の王胤は王家・天皇家の他の血筋に移ることはない)の侵犯としている。