犬身 松浦理英子

犬身

犬身

「種同一性障害」か。人との関係や愛着は性を超えたところにも存在する、ということでもあるか。牡犬に変えられるというところがひねりでもある。犬の視点から近親姦、虐待(ネグレクト)の家族を描く。視点というのも、この小説を入れ子構造にして深みを増している。ブログという他者(兄嫁)からの視点を機に、彬がつくった「梓」視点での自画像、都合の悪い事実を認めない母親(それは中学時代の友人「美香」にもつながる)は、何も見ていない視点なしという人物か。そして神の目としての朱尾。傑作だ。漱石の『猫』を意識しているのだろう。北杜夫の『高みの見物』ではゴキブリでやっていて、これはこれで思いつきだけのくだらない内容ではあるが、その「軽み」が救いの時もある。北杜夫といえば、『奇病連盟』もその類だ。