文明国をめざして 牧原憲夫

文明国をめざして (全集 日本の歴史 13)

文明国をめざして (全集 日本の歴史 13)

▽文明開化と四民平等は「客分」だった民衆に責任を持たせ、管理することでもあった。身分によって違いがあった服装や髷を洋装やザンギリにし、中間団体を否定して個を掌握する。自己責任と所有権・営業の自由は、仁政を否定し功徳を禁止する。▽維新の勝者は誰か。領主や武士は支配権があったが、そのまま大土地所有者とはならなかった。農場の経営主体が領主だったヨーロッパとは異なり、日本では年貢の取り立てはできても、国替えにあったりして。その意味では明治維新は西欧以上に「近代的」な革命だった。▽改革・革命がじつは復古だ、という論法。徴兵制は律令以来の「我朝上古の制」。経済的自由主義は「カンナガラ」。▽征韓論争と台湾出兵琉球併合。清国からの抗議により、宮古八重山を放棄する代わりに清国内の通商権を得るという「分島・改約」は初めて知った。沖縄の人たちの頭越しに、ずいぶん勝手なことをやっていたものだ。沖縄の人たちにとって、日本とは、アメリカとは、そして中国とはどんな存在なのか。中国は脅威と感じられているのだろうか。▽やがて強制から放任へとうつっていく。衛生行政は市街地など重要なところから始めて、一律に強制するのはやめて、適応できない連中は切り捨てたいと。「貧人の巣窟」は市の周辺部に追いやられた。放任と選別の典型が学歴社会。「平等と自発性を前提とする」。「できない子」もそのまま卒業させてしまう。「貧民の子でもエリートになれる可能性だけは存在した。しかし、受験戦争を勝ち抜く意欲や覚悟のない者に参加の義務はなく、挫折したら自分の能力や努力が足りなかったと反省するほかない」。▽「おわりに」で著者が書いているように、グローバル・スタンダードが叫ばれる近年は「国家機能の縮減と自由放任経済の復活が進行し」ている。当時の人たちの考え・感じ方はまさに現代に通じるものがあるだろう。