靖国問題 高橋哲哉

靖国問題 (ちくま新書)

靖国問題 (ちくま新書)

▽感情の錬金術、という言葉を使って、遺族の悲しみを喜びに変える装置としての靖国を表現している。▽また、日本の文化として、敵方の死者を祭るというのもあり、戊辰戦争の賊軍を排除する靖国の祭り方は、日本文化の伝統というよりもどちらかと言えば、ヨーロッパ国民国家的ともしている。これは、一般的な理解(これまでも村上重良や大江志乃夫などで読んだ)あろうが、この本で主張されている新しい視点としては、▼15年戦争以前の台湾征討や日清・日露など、過去の植民地戦争の戦死者も祭られていることで、植民地獲得と抵抗運動弾圧のための全ての戦争が聖戦とされている、という点、▼そして新たな国立追悼施設(これは、神社=非宗教の危険が十分あるが、その点を回避したとしても)も、たとえ軍人・民間人・敵方含めた施設となったとしても、その後の自衛隊の活動で起きた死者を祭る際には、平和憲法を楯に自衛隊の活動に抵抗した死者は排除するとしたら、「自衛隊武力行使は正しい武力行使」となり、第二の靖国につながる、とする点。また合祀は天皇の意思で行われ拒否もできないということから、合祀を求める遺族の声もたまたま天皇の意思に合致していたに過ぎず、無視されていることに変わりはないと論理付けている。ただ「第二の靖国」を防ぐためには九条の完全実施を前提とするかの論は、現実としてはハードルが高過ぎ、やや非現実的な印象ももった。