競争の作法 齊藤誠

競争の作法 いかに働き、投資するか (ちくま新書)

競争の作法 いかに働き、投資するか (ちくま新書)

リーマンショックで失ったものはわずかだった、というところから始まる。すなわち「戦後最長の景気回復」で得たものはわずかであり、家庭の所得も雇用もそれほど失われたわけではない。デフレというが、穀物や石油製品が大きく値上がりした分を多少取り戻した程度なのだ。すなわち「戦後最長の景気回復」とは、雇用をごく少数の人たちの犠牲によって維持しその結果としての人件費の節約はたかだか1%に過ぎず護られた人たちにとっては物価の下落でプラスにさえなっている。格差が話題となった背景には、「少数の貧困」に対する「多数の安堵」があった。そして。日銀のゼロ金利で誘導された「見える円安」と物価の安定でもたらされた「見えない円安」により2割も下駄をはかされた価格競争力で輸出を伸ばし(たたき売り)、海外から割安の土地(銀座など)を買いたたかれたことが景気回復の正体であり、日本は実はコストを2割カットしなければ国際競争力はないのだ。で。一人ひとりに突き付けてくる。生産性の2割向上ができるか。コストの2割カットに耐えられるか。他人に対してはどうか。保身と嫉妬。経済理論を平易に説きながら倫理と人生観を語りかける。評判通りの快著。